
「マナー」について #6
河原一久
1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。
伊丹十三監督の映画「タンポポ」にこんな場面がある。
西洋料理店の一角でマナー講師が生徒たちに「食事中に音を立ててはいけない」ということを実践的に教えている。
ところが同じ店内に太った外国人がパスタを食べていて、啜ったり、ゲップをするなど猛烈に音を立てていた。
マナー講師も生徒たちも「音を立てない食べ方」を実践しつつ、盛大に「音を立てて食べている外国人」の姿に心が揺れ動き、最後には堰を切ったように件の外国人を真似て、みんなで音を立てて食べ始めてしまう、というシーンだ。
とかく堅苦しく思えるテーブルマナーと、それを教えるマナー教室のある種の馬鹿馬鹿しさを伊丹監督流に笑い飛ばした名場面なのだが、ここで「音を立てて食べる太った外国人」を演じているのがアンドレ・ルコントさんなのが非常に面白い所だと思う。
ルコントさんは戦後の日本社会にフランス菓子を初めて本格的に紹介したパティシエで、日本のフランス料理やスイーツの世界では「巨人」とも呼べる人なのだ。
そんな人が「テーブルマナーなんてどうってことないさ」とばかりに音を立てまくりながら食べている様子を嬉々として演じている様がなんとも微笑ましくもあり、皮肉も効いていると思うのだ。
とはいえ、西洋料理だけでなく、世界中のテーブルマナーのほとんどが「食事中に音を立ててはいけない」ということを基本ルールにしていることは確かだ。
だから「タンポポ」で描かれた場面の趣旨は、日本における「過剰なまでのテーブルマナーへの恐怖と教育」に対して「ちょっと冷や水を浴びせてみよう」というものなのだと思う。
それぐらい高度成長期末期からバブル経済の頃の日本では「テーブルマナーへの意識」が高まっており、それゆえにへんてこりんなマナーも生み出されていたのだ。