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2023.07.05

「マナー」について #3

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

先日、「ワサビ醤油の是非」について書かれた記事を見かけた。
「ワサビを醤油に溶かして使うのはいかがなものか」という問いに対する意見をまとめたものだった。
同様のテーマをテレビでも議論していたのを見たことがある。
読者や視聴者にとってわかりやすくて面白い話題、ということで、最近はこうした話題を見かけることが多くなった。
しかしこうした「何気ない日常の疑問」といったテーマの場合、いつも設定がおかしい形、というか中途半端な形で設定されていることが多くて、その結果、読者らが非常に混乱するようになっている印象がいつもある。


別に目くじらを立てるほどの問題ではないのだが、一方で放置しておくと、間違った理解が世の中に浸透してしまい、それを信じた人がある時とんでもない恥をかくことだってあるのだ。
で、今回の「ワサビ醤油」の場合、記事の基本的な主張はこんな具合だった。
「寿司屋でワサビ醤油を使うのはマナー違反である」という結論だ。
これを複数の寿司職人の証言を元にしているわけなんだけど、正直、どういう場面を想定しているのかがよく分からないのだ。
寿司の場合、職人はネタにワサビを塗ってシャリと合わせて握るので、そもそも「握り寿司にワサビ醤油を使う」という設定はあり得ない。
だからこのケースでは「寿司屋で刺身を食べる時」という意味しか考えられない。
しかしそうなると、場所を寿司屋に設定する意味がよく分からなくなる。
寿司屋でなくても天ぷら屋や居酒屋でも刺身は出るからだ。
いずれにしても前提として語られるのは「廻らない」高級寿司店であって、手頃な「回転寿司」ではないらしいのだけれど、この辺の区別を明確にした上で話を進めないのが常で、そのためこれが混乱の元になっている。