世界と日本の差別の歴史 #5
河原一久
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。
戦国時代には芸能好きの武将たちの多くが梅毒を患い、命を落とす者も多かったが、これはいわゆる「河原者」の芸能者たちから感染したからだとも言われている。
このことは彼らが差別の対象となった理由とはほとんど関係がないが、「性病が蔓延して風俗が乱れる」という理由で「女性による歌舞伎」は禁止されるようになったわけで、歌舞伎の世界で男性が「女役」を演じるようになった背景にはこうした事情があったのである。
幕末の頃になると江戸中の評判をとった七代目の團十郎は「金を儲けすぎる上に贅沢しすぎる」といった理由で江戸から追放されたりしたこともあるが、歌舞伎役者に限らず、著名な芸能人の人気に権力者が便乗するのは今では日常になった。
様々なキャンペーンにおける人寄せパンダ的な役割はもちろんのこと、「一日警察署長」や「一日税務署長」などと担いでみたり、もっと直接的に、国会議員として立候補させたりもしている。
一方で先の桂離宮の例からも分かるように、都合が悪ければ容赦なく切り捨てる存在でもある。
要するに差別する側とされる側がなんとなく共存し、時に問題として表面化することもある、というのが日本における差別で、アメリカなどのように黒人やラテン系、アジア系といった見た目だけでも分かるような違いによって認識できる類ではないところが面倒なところだと思う。
そして「非人」だけが差別の対象なわけではない。
アイヌ差別や沖縄差別は今もなお続いている問題だし、在日中国人や在日朝鮮人などに対する差別は大っぴらに行われている行為で、これに関しては政治家でさえも率先して行っている例もある。
「日本には差別なんてない」なんて言う人が今でもいるが、差別は昔からあるし、今もある。
問題なのは「差別なんてない」と本気で言ってしまえるほど「差別という者に無知な人々」が増え続けている、ということなんだと思う。