世界と日本の差別の歴史 #2
河原一久
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。
で、プレスリーにしろジェニファー・ロペスにしろ、差別と闘ってきたアーティストたちに共通しているのは、彼らは結局「差別に勝って世の中を変えてきた」という点だ。
特にプレスリーは黒人音楽の地位を劇的に向上させてきたし、例えばザ・ビートルズも同じ時代に同じように世の中を変えてきた。
当時アメリカの南部などでは公共の場では白人と黒人が明確に差別されていた。
トイレは男子、女子、カラーズ(有色人種)と分けられていたし、コンサート会場も白人エリアと黒人エリアが区切られていた。
渡米してコンサートツアーを行っていたビートルズはその事実にショックを受け、記者会見を開いて「客席を人種で分けるなら自分たちは演奏しない」と宣言した。
これによってフロリダ州ジャクソンビルで行われたコンサートは初めて人種に関係ない形での開催となり、以降、公共の場における人種差別は順次撤廃されていくことになった。
この辺の顛末はロン・ハワード監督によるドキュメンタリー「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK」で実際の状況を目にすることができる。
直木賞作家で作詞家としても知られたなかにし礼さんは、「歌う」という言葉の原点は「うったう(訴う)」、つまり「訴える」ことであり、そこには歌い手による「願い」が常に含まれているものだし、そうであるべきだ、と話していた。
ビートルズやプレスリーに代表されるアーティストたちによる「訴え」はその顕著な例なんだと思うし、日頃人種差別などを意識する機会の少ない日本人から見れば単純に「偉大なアーティストはすごいね」と思ってしまう。
しかし彼らはこうして社会を変えてきたからこそ「偉大である」とも言えるわけで、そのことを我々はもっと真剣に考えなければならないとも思う。
なぜなら日本にも目立たないが「深刻な差別」が長年続けられてきたからだ。