世界と日本の差別の歴史 #1
河原一久
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。
先日、ネットフリックスで、女優で歌手のジェニファー・ロペスに密着したドキュメンタリー「ハーフタイム」を観た。
2020年の2月に行われたスーパーボウルのハーフタイムショーに出演するまでの道のりを描いていたんだけれど、彼女が受けてきた人種的差別や女性としての差別などが赤裸々に語られていて非常に興味深い内容だった。
プエルトリコ系のアメリカ人である彼女は、その出自だけですでに差別を受けてきたし、ラテン系の女性特有のグラマラスな体型でも偏見的な差別を受け続けてきたんだそうだ。
1997年にメキシコ系アメリカ人歌手の生涯を描いた「セレナ」で主演したことをきっかけに音楽活動を開始し、1999年にはナンバー1ヒットを飛ばして歌手としての成功も収めた。
そんな彼女が自身が差別されながらも社会に残る差別と戦い続けてきたことに驚かされた。
またバス・ラーマン監督がプレスリーの生涯を描いた「エルヴィス」も驚かされた作品だった。
彼が歴史的なスーパースターだったことはもちろん承知していたけど、彼がなぜアメリカでしかコンサートを行わなかったのかはこの映画で初めて知った。
本人は日本公演なども熱望していたので実際には「行えなかった」んだけれども、一番驚かされたのはプレスリーもまた長年にわたって「差別と闘い続けてきた」ということだった。
そもそも彼の音楽的出自が黒人社会の中で過ごしたことに影響されていたり、有名な「ハウンドドッグ」など、多くの歌が黒人歌手のカバーソングだったこと、そして保守的なアメリカ社会が黒人と白人との間の目に見えない境界線をがむしゃらに守ろうとした結果、プレスリーの有名な「腰ふりダンス」を封じ込めようとしたが、大衆の欲求とプレスリーの信念によって吹き飛ばされたことなど、目から鱗が落ちるようなエピソードに圧倒されっぱなしだった。