KIEN 働き方情報サイト

2021.12.10

幸福の相対評価 #2

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

たとえばちょっとした遠出の際に寄ったサービスエリアや、ツーリング先でふと思い立って訪れた見知らぬ飲食店などで食事をとる。
これが楽しい上に美味しい。
いや、正確には「美味しく感じられる」のだと思う。
同様の感覚は車でドライブした時にも感じることができたものだが、その理由は恐らく2つあって、1つは「ドライブやツーリングという非日常体験がポジティブな感覚を増幅させる」ということ。
もう1つは「遠出という行為自体が自分の日常空間からの脱出を意味し、見知らぬ土地での未知の味の体験が新鮮な発見となる」という点だと思う。
どちらも「非日常体験」の範疇なので1つにまとめてもいいのだが、とにかくこうした要素がプラスに働いているのだと思う。
そしてバイクの場合にはさらに上乗せした第3の理由が存在すると思っている。
それは「適度な疲労」だ。


クラッチを切ってギアを1速に入れる。
半クラッチの状態を保ちながらスロットルを開きバイクを前進させる。
ギアを上げながらスピードを上げるにつれて、身体に感じる風圧は徐々に強まっていく。
高速道路に入り、さらにギアを上げる。
正面から叩きつけられる風はさらに勢いを増し、時折横からの風も吹き付けてきてバイクを揺るがすので臨機応変に姿勢を整える。
時々、ヘルメットのバイザーにコツンという音とともに虫が激突してきて驚かされるし、大型トラックなどが真横を通過していく際には意外なほど威圧感を感じたりもする・・・。
こんな感覚は自動車で感じることはなかったし、それはオープンカーだったとしてもまったく同様だった。
とにかく車とバイクでは疲労する次元がまったく違っていたのだが、実はこれが「最良の調味料」であることに気づかされた、というわけなのだった。