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2022.02.18

幸福の相対評価 #10

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

先日、以前お世話になった方から嬉しい知らせが届いた。
結婚したというのだ。
もうすぐ70代に届こうという年齢で、もちろん初婚ではない。
いろいろと苦労もされた方なので、人生の後半戦に伴侶を得たことは素直にめでたいことだと思った。
早速、共通の知人女性にこのことを知らせたところ、彼女は彼の幸せを知って歓喜したが、しばらくすると落ち込んだ表情になった。
聞くと、最近こうした話が彼女の周辺でよくあるのだそうだ。
友人、知人らの幸せを祝う気持ちは人一倍あるのだが、翻って自身の幸せを考えると気持ちが沈んでしまうのだそうだ。
彼女は独身で、これまでも婚活はよくしていたという。
美人だし性格も良いと思う。
でもこれまで結婚という形で話がまとまることはなかった。
だから「なぜ私だけ幸せになれないのか?」と自問自答してしまうのだそうだ。


こういう場合、友人男性として言葉をかけるのはなかなか難しい問題だ。
「大丈夫だよ」「そのうちいい人が見つかるよ」なんて言葉は聞き飽きているだろうし、その「そのうち」が訪れないまま現在に至っていて、それゆえに落ち込んでいるからだ。
とはいえ黙して語らないのも、それはそれで残酷だ。
だからこう話した。
「何が原因かは僕にはよく分からないけど、自分の中に相手に対する理想が明確にあって、それを追及し続けてきたのであれば、それが原因なんじゃないかと思うよ。
人を好きになるということは、計算でできるものではないし、自分の感情の盛り上がりに見合うだけの見返りを常に求めてしまうと、まず間違いなく感情のすれ違いが起きるだろう。
そうなるとそこから負の感情が生まれて上手くいかなくなるんだと思うよ」
こんなんで納得なんてできるとは思っていないが、少なくとも彼女の自己批判の感情は脇に逸れていったようだった。