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2023.01.06

文化への関心と尊重 #16

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

だから「街中華」や「ご当地グルメ」、あるいは「本格中華」や「ラーメン」など、細分化されたカテゴリーに属するお店は、それぞれのカテゴリー内での評価でしかなく、単純に与えられた点数などの評価で総合的に判断すべきものではないはずだ。
大衆に人気の回転寿司店が4つ星で、回らない江戸前寿司の店が3つ星半だったとしても、その回転寿司点が回らない寿司よりも美味しいとは限らないし、単純比較すればコストの面では比較できるものの、そもそもの原価や職人のスキルに天地ほどの差がある者を同列に語るのには無理があるのだ。


スポーツの世界なら体重などによる階級に分かれているし、その違いを我々は直感的に理解していると思う。
そして食文化もまさに同じことなわけで、この辺を混同して「メディアでちやほやされている高い店よりも街の食堂の方がいい」などと言ってしまうと自らの世界観も狭めてしまうわけで気をつけたいところだと思う。


とはいえ、社会における収入の格差が長年の問題となっている現代では、こうした「食文化を俯瞰でながめる」という考えを実践するには無理があるのかもしれない。
「家族4人で寿司を食べに行くなんて、回転寿司じゃなければ無理ってもんですよ」という嘆きは同僚からもよく言われたものだし、実際その通りだとも思う。
自分の場合はしばらくお金を貯めてからたまに贅沢な食事をして経験や見聞を広めようと意識はしているが、それも度々にというわけにはいかないのだけど、それでも旅行やコンサートに行くのと同様、「贅沢な食事」をひとつの「非日常的」なアトラクションと捉えることで見えてくる世界は確実にあることは間違いないのも確かだと思うのである。