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2022.12.02

文化への関心と尊重 #14

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

この「習慣性による評価」というものが食文化において最も強く作用しているのが「街中華」というジャンルだろう。
「街中華」とはどこの街にでもある個人経営の中華料理店で、大抵の場合、ラーメン各種と定食、カレーライスなどもメニューに含まれ、中国人や中国系の人ではなく、対戦時に戦地や国内の中国人から料理の仕方を教わった日本人が創業した、というパターンの店だ。
だからその味も中国人が中国で作るような本格中華料理とは異なり、日本人が日本人のためにアレンジした「日本人向けの中華」になる。
この「街中華」というジャンルとその多様性については、これはこれで面白いのだけど、ここでは引き続き「習慣性」に特化して話を進めよう。


「街中華」の本質はその料理のレベルが「本格」ではないがゆえに「大衆的」であることに尽きる。
だからその味も万人が喜ぶようなものを目指している。
そして店の料理人の腕前や創意工夫の結果が、街の人々の嗜好にマッチした時に、人気メニューが生まれる。
それはラーメンだったり、タンメンだったり、各種定食だったりするんだけれども、チューシューが美味い店ならチャーシューメンが、カレーライスが美味い店ならカレーやカツカレーなどが人気となる。
ラーメン屋さんなのにカツ丼が一番美味しいからお客さんがカツ丼しか注文しない、なんていう店は全国各地にある。
そしてその評判がメディアで紹介され、そのことで新たなお客さんがわざわざ全国から集まってくる。
よそからやってくるお客さんにはその店のある街での習慣性がないから評価も分かれがちだ。
「評判通り!」という人もいれば「期待したほどじゃない」という人もいる。
それらの評価はネットで共有されることになるが、大抵の場合、熱く語られる賛辞の方が人々の印象には残るし、現実問題として大衆のほとんどはそれなりに美味しく作られていれば「美味しい!」と満足するものなので、ポジティブな評価が蓄積していくことになる。