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2022.09.16

文化への関心と尊重 #3

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

そもそも「ジャパニメーション」という言葉を考え出したのはアメリカのアニメーション業界の人々だったのだが、この言葉を封印し、「もう使わないように」と世界に呼びかけたのもまた彼らだったのだ。
彼らも日本製アニメ作品を「ジャパニメーション」と名付けた際には「なかなかいいネーミングだよね」と思っていたそうなのだが、何年か経ってみてあることに気づいた。
今はまだ日本のアニメを好きで、一定のリスペクトを持った人たちが使っているから問題ないが、そうしたアニメに対する知識もない人たちにまで言葉が浸透していくと問題が起きるかもしれない、と言うのだ。


つまり「JAPANIMATION」をそのまま「ジャパニメーション」と読むのならなにも問題はないのだが、どう読めばいいのか分からない人たちなら、いずれは「ジャップ・アニメーション」と区切って読む人が出てくるだろうし、場合によっては意図的にそう読む人も出てくる可能性がある。
言わずもがな「JAP(ジャップ)」とはアメリカなど英語圏における日本人に対する蔑称であり、かつては在米邦人への差別を中心に使われてきた言葉だ。
そしてアメリカのアニメーション業界の人々は、そうした形で不必要な日本へのバッシングに「ジャパニメーション」という言葉が使われるのは良くないと判断し、日本のアニメに対するリスペクトの気持ちから、あえて「ジャパニメーション」という言葉の封印を決意し、呼びかけたのだそうだ。


このことを伝える当事者のインタビュー記事を読んだ時に、とても心が暖まる気持ちになったが、翻って我々日本人は世界のあらゆる文化に対して、こうした気遣いを持って接することができているのだあろうか、と自問自答してみたが、胸を張れるような答えはすぐには出てきそうになかった。