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2022.12.09

文化への関心と尊重 #15

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

ではこうした「街中華」の人気メニューが、いわゆる高級料理店や本場の専門店の味にも匹敵するくらいの美味しさなのかというと、実際には「平均レベルの味」であることがほとんどだ、というのが個人的な経験から感じた結論だ。
それは別に「街中華の人気メニューが大したものではない」ということではなくて、一般的なグルメ指向の中で、その他のジャンルのものと同じ土俵で語るべきではないと思うのだ。
結局のところ、街中華の味や評価も客側の「習慣性」によって積み立てられていったものがほとんどで、そこに街中華独特の佇まい(多くの場合、昭和の香りの漂う店構えとインテリア、品揃えになる)が特に中年以上の客によって加点されていく。
彼らが子供の頃によく見た広告などが今も変わらず古ぼけた形で残っていたりしたら、それはもう料理の味とはまったく関係ないけど、その人にとっては過去にトリップするテーマパークのようなものになる。
こうした加点は古ぼけたテーブルクロスや年季の入ったどんぶり、本棚に並べられたオッサン好みのコミックといったものが有効になったりもする。


結局のところ、こうした客の心の琴線に触れる様々なものが人気メニューの評判にも関わってくることになるわけで、これは全国の観光地で地元の人が赤面してしまうような郷土食丸出しの演出のお店が一定の人気を得ることができるのと同じだし、これのさらに一歩先を行って、「地方の過剰な演出などがない、地方の日常を色濃く残した素朴な店」といったものに惹かれるという心理も生まれるが、いずれも単にお店に求めるものに対する尺度に違いがあるだけで、そのベクトルは同じなのである。