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2022.09.23

文化への関心と尊重 #4

河原一久

1965年神奈川県生まれ。
著書に『読む寿司』(文芸春秋)、『スター・ウォーズ論』(NHK出版)、『スター・ウォーズ・レジェンド』(扶桑社)など。
監訳に『ザ・ゴッドファーザー』(ソニーマガジンズ)。
財団法人通信文化協会『通信文化』に食に関するエッセイ「千夜一夜食べ物語」を連載中。
日本ペンクラブ 会員。

例えばオードリー・ヘップバーンが主演し、一躍世界的大スターとなった映画「ローマの休日」では、トレドの泉や真実の口、コロッセオなど、ローマの名所が随所に登場し、世界中のファンたちはローマ訪問の際にはこうしたロケ地巡りを楽しんでいる。
特にスペイン階段でヘップバーン演じるアン王女がジェラートを食べる場面は有名で、同所でジェラートを買って名場面を再現するのは女性観光客にお約束事項にもなっていた。
そういう人たちがあまりにも多く、その結果ゴミなどでせっかくの名所の景観が汚されてしまう状況になったため、数年前からスペイン階段でジェラートを食べることは禁じられてしまったほどだ。


このように人気コンテンツの舞台となった場所が、ファンたちにとって特別な聖地となって多くの観光収入を生み出した、という現象はもっぱら実写映画での現象だった。
アニメの場合だと、架空の土地での物語であったり、たとえば「ドラえもん」などのような作品だと、そもそも地名すら登場しないケースがほとんどだった。
こうした状況が明確に変わったのは1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」が登場してからだと思う。
同作品では背景描写も精密で、しかも箱根や芦ノ湖近辺という実在する土地を舞台としていた。
もちろん、劇中の光景そのものが現実にあったわけではないが、作画の上では実際の風景などをかなり正確に描写したことで作品にリアリティを与えていた。
そして後に作品が空前の大ブームになると、アニメ用のロケ地として使われた場所などはやはり聖地としてファンが訪れるようになった。
以降、アニメ作品が現実の町などを舞台にして描かれる例が少しずつ増えていき、作品がヒットすると、それは驚異的な街おこしの成功例となっていった。